ドイツで5月は「最も美しい季節」

ローテンブルク郊外の農村。5月。

ゴールデンウィークが終わり、5月も半ばが過ぎましたね。日本で5月は「初夏」と呼ばれる気持ちのよい季節ですが、爽やかなのはドイツでも同じです。気温が上がり、山々が新緑に覆われる5月は、「最も美しい季節」といっても過言ではありません。詩人・ゲーテもこの美しさを詠んだほどです。今回は、ドイツの5月について複数の視点から検討してみましょう。

ドイツにおける5月の気候

2019年5月18日。日本気象協会によると、本日の埼玉県さいたま市における最高気温は24度、最低気温が15度です。

一方でドイツ気象局によると、同日のフランクフルト(ヘッセン州)における最高気温は22度で、最低気温は10度。日本よりちょっと涼しいくらいですね。

ドイツ気象局の報告書によれば、2017年5月におけるヘッセン州の平均気温は14.2度。同期さいたま市の平均気温は19.9度でした。日本での5月後半の気候は梅雨に近づいていくことを考慮すると、ドイツの5月は全体的に涼しくて過ごしやすいといえるのではないでしょうか。

ドイツにおける5月の祭日

ドイツにおける5月の祭日といえば、ペンテコステ(聖霊降臨祭)! ……といいたいところなのですが、ペンテコステはイースターから50日後という移動祝日。2019年はイースターが遅かったので、ペンテコステは6月です。以前、5月のペンテコステにバイエルンを訪れ、新緑の美しさに感動したので、5月といえばペンテコステ、というイメージを持っていました。

2019年5月にある祭日は、「キリスト昇天」の祝日ですね。イースターから40日後という移動祝日で、今年は5月30日(木)と、ギリギリ滑り込めました。ドイツでは州ごとに祭日が異なりますが、キリスト昇天の祝日(Christi Himmelfahrt)は全国でお休みです。31日(金)も休めば、4連休になりますね。

ドイツの5月を讃える詩

ドイツの5月は、かねてより詩人たちからその美しさを讃えられてきました。有名なのがゲーテ(1749~1832)のものです。

”Mailied(5月の歌)”は1771年、ゲーテが21歳のときに書かれました。21歳というと、まだゲーテが学生だった頃。青春時代の代表作『若きヴェルテルの悩み』(1774年)におけるヒロインのモデルとなったシャルロッテと出会う前年です。一部を抜き出して訳すとこんな感じ。シンプルに単語を連ねることで、飾り気のない喜びが表現されています。

自然のいかに素晴らしく輝いて見えることか!
太陽のいかにきらめくことか!
牧草のいかに笑むことか!
花々は枝のひとつひとつから芽吹き
林からは幾千の歌声
それぞれの胸には歓喜と恍惚。
ああ大地よ、太陽よ!
ああ幸福よ、喜悦よ!

Johann Wolfgang von Goethe “Mailied”

ゲーテの「5月の歌」には、同じく私の大好きなベートーベンが曲をつけています。バリー・クーパー著、平野昭ら訳『ベートーヴェン大事典』(平凡社、1997年)によると、1805年に出版された「8つの歌曲」のうちのひとつ。「ほとんどの歌曲が1790年代に書かれた」そうです。

1790年というと、ベートーベンは19歳。ボンの宮廷オルガニストです。1792年にはハイドンに師事するためウィーンに移ります。音楽史的に、ベートーベンは古典派とロマン派の架け橋だと解釈されており、この時期の作品は古典派らしく伝統的で素朴なメロディを持っているといえます。

ちなみに、私のバイブルといっていい『若きヴェルテルの悩み』という物語も、5月に始まります。主人公のヴェルテルが新たな土地に引っ越してきて、故郷の親友・ヴィルヘルムに最初の手紙を書くのが1771年5月4日。この月、まだロッテに出会う前、ヴェルテルは書簡のなかで自然の美しさをありありと書き出しています。特に5月10日付の書簡は、一遍の詩のような美しさです。私のつたない訳で失礼。

素晴らしきまでの晴れやかさが僕の魂をすっかり捉えてしまった。僕が心から味わっている、甘やかな春の朝もそうだ。(中略)気に入りの谷間にいると、辺りに霧が立ち込め、我が森の見通し難い暗闇の表面で昇った太陽が憩う。そして一条の光が精神の聖域に忍び込み、僕は流れ往く小川のほとりで高くしげった草むらに横たわる。すると、地面近くで無数のさまざまな小草が目につく。茎の合間で小さな世界――数えきれない、計り知れない、虫たちのささやかな姿――がうごめくのを僕は心でこまやかに感じ、我らを自身に似せて創りたもうた全能の創造主の存在を、万物を愛し、 我らを永遠の歓喜のなかに漂わせつづける神の息吹を感じる。

Johann Wolfgang von Goethe “Die Leiden des jungen Werther”

ドイツにおける5月の風景

最後に、私が5月頃にドイツで撮った風景写真をご覧ください。ドイツの5月に想いを馳せつつ、日本の5月も楽しんでいきましょう!

ヴィースバーデンの公園。ピンクや赤の花が咲いている。
ヴィースバーデンの公園(ヘッセン州)
マールブルクの春。草地に黄色い花が咲いている。
マールブルクの住宅地(ヘッセン州)
リューベックの修道院。新緑がみずみずしい。
リューベックの修道院(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州)
ローテンブルク郊外の農村。5月。
ローテンブルクの城門の外(バイエルン州)
ローテンブルクの郊外、5月。丘の上に一本道が走っている。
ローテンブルク郊外の丘の上(バイエルン州)
ローテンブルクの郊外、5月。青空と一面の赤い花。
ローテンブルク郊外の丘の上(バイエルン州)