ドイツの町並みが好き、という日本人は多いのではないでしょうか? かくいう私もそう。たいていの町には旧市街が残っており、ちょっとした風景でも絵になるんですよね。道を歩いているだけで、なんて美しいのだろう、とうっとりしてしまいます。
今回は、私の大好きなドイツの町並みを、種類別に写真で紹介いたします。撮影したのが2009年~2010年と古いうえに、場所が偏ってもいますが、そのぶん実感と愛情をもって語らせていただきますね。
ドイツの町並み:遠景
ドイツの町並み、まずは遠くから見てみましょう。ドイツの町は川の近くに広がっているのが普通で、その光景は非常にピクチャレスクです。

観光地としておなじみ、ハイデルベルク。 旧市街では複数のツアー客を見かけました。外国人はもちろん、ドイツ人も。外国人が好む観光地は大抵、ドイツ人観光客も来るところですね。
ハイデルベルクは観光地であると同時に、現役の大学町でもあります。日本の大学のように広いキャンパスが確保されているわけではなく、町内に点在する建物を学部ごとに使っているようなので、部外者にはどこが大学なのか分かりづらいですね。
この写真の撮影ポイントは、ネッカー川の対岸の丘の上にある「哲学者の道」。ハイデルベルク観光の定番スポットです。ゲーテをはじめとする詩人や哲学者が散歩した道なのだとか。私は日帰りでしかハイデルベルクに行ったことがないのですが、宿泊すれば、朝の静かな空気のなかでそぞろ歩きを楽しめそうです。
余談ですが、私の母が大学生時代に留学していたそうなので、ハイデルベルクにはいつか一緒に行ってみたいものです。

人口が100万人を超える、ドイツでは稀有な大都市・ケルン。ライン川の対岸から見た冬の姿です。貨物をたくさん積んだ船が運行しています。昔ながらの商業都市なのです。
右手に見えるのはホーエンツォレルン橋。私は宿代の節約のため、ケルン地区ではなく、橋でつながっているドイツ(Deutz)地区のユースホステルに泊まっていました。橋は歩いて渡れるのですが、さすがは父なるライン川。川幅が広く、渡りきる頃には足が疲れてしまいました。
写真内にいくつか大型クレーンが見えます。新しい建物が建築されている途中のようですね。この写真を撮ったあと、地下鉄工事の影響で文書館が崩落したり、欧州最大のモスクの建築が問題視されたりと、ケルンではいろいろあったようですが、今ではどんな様子なんでしょう。

ヨーロッパにおける金融の中心、フランクフルト。日本からドイツに入る人の多くは、最初にこの光景を目にするはずです。駅から伸びる大通りに沿った新市街のビル群も美しいですが、観光の定番は、市庁舎が面する旧市街の広場。さらに、マイン川を渡った先に広がるザクセンハウゼン地区は、まるでディズニーランドのようなおとぎ話の世界。複数の顔を持ち、しかもそれらがうまく調和した魅力的な都市です。
私がドイツでいちばん好きな街は2つ(選べません……)あって、その一方がフランクフルトです。街路が広く清潔で、都会らしく洗練された雰囲気で、かつ東京とは違い静かで穏やか。買い物や美術館めぐりも楽しかったですが、ただ歩いているだけで幸福な気持ちになったものです。高層ビルが林立する街がドイツでここしかないこともあり、日本が恋しくなったときは、フランクフルトを練り歩いていました。

みんな大好き、ローテンブルク。日本人だけでなく、世界中から観光客が押し寄せます。城壁に囲まれ、赤いスレート屋根で統一された旧市街は、中世の町並みそのものといったイメージ。2001年~2002年にかけてTBSで放送されていたアニメ『ちっちゃな雪使いシュガー』の舞台・ドイツの架空都市ミューレンブルクは、ローテンブルクをモデルにしていました。私はこのアニメが本当に大好きだったので、自分の足で「聖地」を訪れた感慨は、なかなかのものでした。
この写真は、ローテンブルクの城壁外から谷間越しに撮ったものです。町が丘の上にたたずみ、木々に囲まれている様子がわかりますね。聖霊降臨祭(イースターから50日後)の連休で訪れたので、バイエルンの美しい初夏を堪能できました。実は旧市街を探索するより、町の外を散策するほうが気持ちよかった思い出。

私が留学中に住んでいた大学町、マールブルク。とはいえ、これは観光客が入ることのない郊外の住宅街。旧市街の写真は、また別の機会に……。遠くに風力発電の風車が見えます。春は菜の花畑も見えるんですよ。
このように、ドイツの町並みといっても千差万別。もっと近くに寄って、建物に注目してみましょう。
ドイツの町並み:ハーフティンバー
ドイツの町並みといったら、多くの人が思い浮かべるのが、こんな家々ではないでしょうか?

木組みの合間を石や土で埋めたもの。北部を除いたドイツ全土でよく見る「ハーフティンバー」様式です。日本人にとっては絵本やアニメでしか馴染みがないので、メルヘン的な印象を受ける人が多いようですね。実際、ドイツの観光街道のひとつ「メルヘン街道」の町に、ハーフティンバーが多いように思います。マールブルクもメルヘン街道の一部です。

マールブルクの近くにある小さな町・ノイシュタット。歴史的な町並みが残っています。フランクフルトに遊びにいって、マールブルクに列車で戻る際、寝過ごしてノイシュタットで降りたことが何度か……。小さいながらも住みやすそうな印象を受けました。
写真に写っているのは、ハーフティンバーの市庁舎。下の層にはいろんな形の石が使われていますね。隣の塔は、丸型のハーフティンバーとしてはヨーロッパ最大だという「ユンカー・ハンゼン塔」。ヨーロッパ最大ということは、世界最大のハーフティンバーではないでしょうか? そんなすごいものだなんて、当時は思いもよりませんでした。

メルヘン街道の有名な観光地・ハーメルン。奥の商店がハーフティンバー様式。手前の建物は、レンガと漆喰がボーダーになった珍しいデザインですね。ギリシャの神殿風の装飾がついているので、「折衷主義」というやつでしょうか。

観光名所「ルターの家」。プロテスタントの祖、マルティン・ルターが学生時代に住んでいたそうです。木の部分が深緑に染められて、シックと同時に華やかでもあります。

ハーフティンバーの商店と、ルネサンス様式×バロック様式の市庁舎。同じ町のすぐ隣にあるのに、まったく趣が異なります。けれど、なぜか調和しているんですよね。

マールブルクの郊外です。お城があんなに霞んで見えるので、中心部からはかなり離れていますね。ハーフティンバーの倉が並んでいます。
ドイツの町並み:レンガ造り

ドイツ北部の町並みは一転、赤や黒のレンガ造りです。重厚な雰囲気で、私はこういう建物を見ると「ロンドンみたい!」と感じます。バルト海沿岸では粘土がよく採れたそうなので、リューベックをはじめ、ハンザ都市はどの国でもこんな町並みになったようです。

新市街と旧市街のあいだに立つ、ホルステン門。門のあちらとこちらでは、建物の様式が大きく変わります。

聖ペトリ教会からリューベックの街を見下ろしたところ。ハーフティンバーは見当たりません。

聖ペトリ教会から見るマリーエン教会と、リューベックの街並み。旧市街は世界遺産ですが、新しい建物も少し見えますね。

リューベックから南に数十キロ。湖に浮かぶ町がラッツェブルクです。ここにも赤レンガの建物がたくさん。

ところどころに白を使っているので、レンガ造りでも爽やかな印象です。

徹底したレンガ造りです。

ハンザ都市から移築したのかな、と思ってしまうような、北部ゴシック様式の建物。たしか、学校だったような気がします。
このように、ドイツの伝統的な町並みで代表的なものは、ハーフティンバーとレンガ造りの2つだといえます。ハーフティンバーは素朴で落ち着くのですが、実は私……レンガ造りのほうが好きなんですよね。ハンザ都市の町並みって、まるでRPGから飛び出てきたようで、わくわくさせられます。
ドイツの町並み:古代ローマ
ドイツの町並みは千差万別。建物ごとに建築時代や様式が異なります。町を歩いていると、今が現代なのか中世なのかわからなくなってしまうかも……。そして中世どころか、古代の遺物に出くわすこともあるのです。

ドイツ西部には、古代ローマ時代に築かれた集落から発展した街が少なくありません。ヘッセン州の州都・ヴィースバーデンもそのひとつ。ルネサンス様式やバロック様式の集う華やかな街中に、突如として古代のアーチが現れるのでした。
ドイツの町並み:近世~近代
ドイツの町並みも、中世が終わる頃には大きく変わります。乱暴なくくりではありますが、建築学に詳しくない私は、ルネサンス様式や古典主義やらをうまく系統的に理解できず……。とりあえず、バウハウス以前の建築をまとめて紹介します!

どうですか!? 今までとずいぶん違いますよね。バイエルン州の州都・ミュンヘン。ルートヴィヒ通りの眺めです。右手前はバイエルン州食糧・農林省。右奥は州立図書館とルートヴィヒ教会。
こんなふうに、扉や窓にアーチ形を多用した建築様式を「ルントボーゲン(半円アーチ)」と呼ぶのだとか。19世紀に流行したそうです。

こちらもミュンヘン。装飾は控えめですが、アウグスティーナー通りに沿ってカーブしているのが特徴です。博物館や警察署が入っています。ロンドンでもこんな感じの建物を見たような……。

ヴィースバーデンの広場を囲んで立つ、美しい建物。整然と並んだ窓のひとつひとつに装飾が施され、とても華やかな印象です。

交通量の多い通りに面した、華やかな建物群。古代風の柱や三角破風を、意匠としてふんだんに取り入れています。こんな美しい家に住んでみたいものです。

重厚な1階と、瀟洒(しょうしゃ)な2階・3階。屋根や窓の装飾も目を引きます。典型的なルネサンス様式でしょうか。

モダンなビル群と古めかしい建物が調和しているのも、フランクフルトの魅力。街の中心部・レーマーベルクの市庁舎です。ヴェネツィアの「ため息橋」に似ているという人もいます。

正面の建物はルネサンス風でしょうか? 左の建物は黒レンガで、北方らしい趣です。
それにしても、ミュンヘンもヴィースバーデンも、ほかの都市とは全く異なる壮麗さです。ミュンヘンはバイエルン王国の首都で、ヴィースバーデンはドイツ皇帝の避暑地。 商人や地方領主に治められていた都市に比べ、君主の好みが反映されやすかったのかもしれません。
ドイツの町並み:モダン建築
ドイツの町並みが、地域や地区によって大きく違うこと、わかっていただけたでしょうか? 次に、バウハウス以降と思しきモダン建築を紹介します。ガラスやコンクリートを用いた近代建築は、デパートや銀行としてどの街の新市街にもあるはずです。装飾をとことん排除した集合住宅も、ドイツではたくさん見られますよ。

バーデン=ヴュルテンベルク州 の州都、シュトゥットガルトの広大な広場。表面の凹凸がなく、たくさんの窓が整然と配置された近代建築が取り囲んでいます。「インターナショナル・スタイル」というやつでしょうか。

ミュンヘンの宿で、部屋の窓から撮影したもの。左手の建物、かなりバウハウス的ではないでしょうか? 装飾性を廃しても、窓の形と位置をそろえるだけで、こんなに美しいデザインになるのですね。

フランクフルトに向かう電車から撮ったもの。一大金融都市であるフランクフルトの郊外には、労働者向けの集合住宅が並んでいます。雑然とした印象を与えないのは、高さがそろっているからでしょうか。
ドイツの町並み:さまざまなスタイル
おおむね時代別に、ドイツの町並みを見てきました。しかし、撮りためた写真のうち、私の力量不足によってうまくジャンル分けできなかったものも多くあります。最後に、さまざまなスタイルの建物をご覧ください!

ローテンブルクの商店。破風のかたちも壁の色もそれぞれ違いますが、不思議と調和しています。

ローテンブルクの城壁からの眺め。屋根は赤いスレートで統一されています。

旧市街と新市街をつなぐ「ガルゲン門」。広々とした通り「ガルゲンガッセ」の両脇に立つ建物の壁色はそれぞれ異なりますが、窓の位置はそろっています。

マールブルク(記憶違いだったらすみません……)郊外の住宅です。鋭い角度の三角形で、雪がよく落ちそうですね。どの家も同じ形ですが、家どうしの間隔が空いているので、日本の分譲住宅とは異なる印象。

これも郊外の民家。上の写真とは異なり、屋根の角度がゆるやかですね。

学生寮近くの住宅街。町の中心からは歩いて30分ほど。家も少なくなり、さみしげな印象です。

グレーに統一された美しい町、ヴェッツラー。橋を渡って旧市街に向かうところです。

白とグレーでまとまった、水辺の美しい町。水彩画にしたらとても絵になりそう。

右手にはハーフティンバーの住宅が見えます。正面の建物の屋根についたタマネギ形の飾りは、ルネサンス風でしょうか……?

アシャッフェンブルクの路地。水色の漆喰と、隣のレンガ造りが対照的です。

城の横にある、川へと降りる門&階段。くねくねとした意匠が特徴的ですが、なんという様式なのでしょうね? 専門家の見解が気になります。
ドイツの町並みの数々、お楽しみいただけたでしょうか。観光といえばお城や教会でしょうが、ドイツの建築は日本と何もかもが違い、ただ民家や商店を眺めているだけでも全く飽きません。ぜひ観光ガイドを閉じ、自由に歩いてみてください。

フランスとは全然違うね。屋根の色も、壁の素材も。フランスではハーフティンバーってほとんど見ないし。ドイツの街も、いろいろ見てみたいなあ。
以下の書籍を参考にさせていただきました。建築についてはまだまだ勉強不足。いろいろ読んでいきたいです。
田所辰之助・濱嵜良実・矢代眞己編『世界の建築・街並みガイド4 新装版 ドイツ|スイス|オランダ|ベルギー』エクスナレッジ、2012年。
土肥博至監修、建築デザイン研究会編著『建築デザイン用語辞典』井上書院、2009年。